児童養護施設の児童指導員になって2ヶ月で思う事。〜職員定着率の低さについて〜
Twitterを見ていると、施設で暮らす高校生は口々に言う。
「信頼していた職員が退職した。」
「担当職員が何度も変わる。」
これがどういう事を意味するのかという事を
当事者ではない大人達はどう捉えているのか。
施設職員になる前、このような高校生達の嘆きを見るにつけ、
「辞めない職員になりたい。ならなくては。」と思った。
親と離れて暮らす子ども達にとって、職員は親ではないにしても、
子どもによっては親と同等の存在として、必要な重要な立場。
親への喪失感、親に捨てられた思いでいる子も居るだろう。
そのような子ども達にとって、職員の退職は、また捨てられた、置いて行かれた思いを繰り返す。
大人をなかなか信じられない中、やっと理解者を得られたと思っていたのに、
また離れ離れにならないといけないのか。
子ども達は再び同じような喪失体験をし、心のケアもまた一からとなる。
親ではない誰かとの愛着関係は、そう簡単に築かれるものではない。
そんな事があると、新しい職員に出会っても、どうせまた辞めるのだろう、と
子ども達は心を開かなくなって行く。
職員に期待するだけ無駄だ。また捨てられる。
もう傷付きたくないから信じない。となる。
子ども達が、職員が退職する事を嘆くのは、その職員の事を受け入れていたからだ。
必要としていたからだ。自分にとって必要のない職員だったら、辞めてもせいせいする位のものだろう。
そんな貴重な素質の職員が何故、短い期間で辞めて行ってしまうのか。
それには様々な要素があるだろう。
その中には、どうしようもない事もある。
特に若い職員の場合(殆どがそうだろうけれど)結婚、出産もあるだろう。
その人自身の人生、子育てもまた大切な出来事だ。
燃え尽きて、一旦職場を離れたい、と思う人も居るだろう。
児童養護施設の職員は、相談相手を持ちにくい。
世の中一般的には仕事の愚痴やら悩みやら上司の事など悩んだ時は、社内外問わず相談したりお酒を飲んだりして発散解決出来たりする。
施設職員の悩みは独特で、目の前に対峙する問題は大変ディープで、外の世界の人に理解を得られないばかりか、プライバシーに関わる事が多いから、外部の人に話せない事の方が多く、また、外部の人に児童養護施設の印象を悪く見せる可能性もある為なかなか話せない。
職場内に於いても同僚も少なく、皆余裕がない。
辞めて行く職員は1人で考えて決めてしまう。行き詰まってしまうのではないかと思う。とても狭い世界なのだ。
私は職員になってたった2ヶ月で、一度辞めたくなる程の行き詰まりがあった。
最初は笑顔で受け入れてくれた子ども達も、その内少し慣れて来ると試し行動が始まるし、信頼関係を積み重ねるにも先が見えない程の努力が必要になる。
今までの常識ややり方は全く通用しない。
何故そうなるのか、伝わらないもどかしさと伝えにくいもどかしさ、自分の無力感にさいなまれ、容赦ない子ども達の言動に、精神が追い詰められる。
それでも、一番辛い思いをしているのは子ども達だから、と職員は自分の心の病みに蓋をする。
長年憧れて就いた職場だったけれど、もう辞めてしまいたいかもしれない、私はこの業界に向いてなかったのかもしれない。
このままでは自分の生活もままならないと思った時、私は主任に相談した。
そしてこの問題は、私だけじゃないんだと知った。
他の職員がみんなそうして手探りで模索しながら過ごしている事は、
現場の他の職員と話す時もそれを感じていた。みんな孤独に頑張っている。
一見子ども達と上手くいってる職員も、試行錯誤しながら必死なのだ。
その人の資質の差もあるだろう。けれど、それだけでは説明しきれない何かがある。
ふと気付いたらボロボロで、退職がよぎってしまう。
私はここで何をやっているんだ。と・・・。
子ども達の支援、と言う原点から遠ざかってしまうのだ。
タフで言葉は悪いが図太い人、あまり気にしないで居られる人が生き残る世界。
志の高い人、この仕事に深い思いのある人に限って退職してしまうのはもったいない。
繊細で人の気持ちを常に読んでしまう人は、続かない。
でもそのような人こそ子ども達の心にアンテナが向けられる。
この職場には両方の資質の人が必要なのかもしれない。
私は、職員のリーダーとなる立場の方には、職員一人一人と向き合う時間、話す時間を月に一度30分でも良いから定期的に設けて欲しいと思う。
職員はそれだけで救われる。話す事で救われる事もある。
もしそれが逆効果になるなら、その人はリーダーにはふさわしくないのだと思う。
リーダーは職員一人一人を見て欲しい。
子ども達の支援に目が向きがちだけれど、職員育成も必要な仕事だ。
辞めない仕組みを作る努力をしなければ、社会的養護の現場の環境は変わらない。
実際はそのような余裕はないのかもしれないけれど、変える努力をしなければ始まらない。
職員の為だけではない。子ども達の「最善の利益」が脅かされる事を防ぐ為だ。
現状は、若い職員の平均就労年数は3年程で、なかなか経験を積んだ職員が少ない。
若い職員は、見本となる職員に出会う事も少ない。
一人でユニットに入る事も多いので、一人で悩みもがく事も多い。
この仕事は、5年続けても10年続けても答えはない。
根気の要る職業だ。だからこそ、それを続けて来た先輩方に話を聞いてもらうのは、
本当に続けて行く活力になると思う。
ただでさえモチベーションが下がるような事例が多い職場だからこそ、職員間の意思疎通が必要になり支えになる。
これは、児童指導員になって若干2ヶ月のおばさんが偉そうだけれど思った事。
前の記事
でもあった「Out of the box=箱の外から物事を見ること、すなわち客観的で独創的な視点を持つこと。施設の外の人間だからこそ得られる視点。」
に少しだけ足を踏み入れた私から見た職員の現場から感じたこと。
既に実践されている児童養護施設も少なくはないかもしれないが、
全国レベルでの職員の定着率の低さは変わっていないので、
敢えて、記事を書かせて頂きました。
最後まで読んでくださってありがとうございます。